初コンクール

モロッコ王室主催の国際コンクール、ヤングピアニスト1、ヤングピアニスト2の部に娘が出場しました。

<コンクール前>

娘はちょうど三年前、7歳の時にピアノを習い始め、10歳の今回が初めてのコンクールです。

冠モロッコ王室コンクールという事で、「出たらパパが喜ぶかも」という気軽な気持ちで申し込みをした時は、まだマラケシュに住んでいました。

その後、しばらくベルリンで暮らす事になり、わざわざ海を超えてコンクール。

まさか一人で行かせるわけには行かないので、私の仕事のスケジュールも合わせ、一週間の予定でモロッコに行く事に。息子はその間学校をお休みできないので、夫がモロッコから来てベルリン滞在。

なんだか大事です。

本人は・・・非常にマイペースなので、コンクールが近づいても、ベルリンに来てからの日課「一日二時間ピアノに向かう」を淡々と続けていました。

二時間と言っても、本人の気持ちの中で「ピアノ」に振り分けている時間が「二時間」。まず、ゆっくりお茶を入れて、鍵盤の蓋を開け、ゆっくり楽譜を用意し、さてと、と弾き始め、区切りの良いところで休憩しお茶を飲み、鍵盤を閉めて楽譜を片付けるまで・・・が二時間。実質弾いているのは90分あるかどうか。

(もうピアノの練習をしたの?)

(今日は何時から練習するの?)

(もう少し時間を取ったら?)

コンクールが近づいてくるにつれて、私も仕事の調整などが忙しく、マイペースな娘を見ていると言いたい事が山ほど出てきます。

練習は、ゆったりした気持ちで行わないと意味がないので、できるだけ言わないようにしていましたが、内心イライラ。

 

小宮尚子先生にご相談すると、「無理に弾いても意味が無いので、できるだけ良い音楽を聞かせてあげてください」

 

直前は、ほとんど毎日レッスンに伺っていたのですが、今まで暗譜ができていた、ドビュッシーの左手の重要な音を大きく外したりして、実は本人もプレッシャーを感じていた様子。

先生は、決して怒らず「気にしなくていいのよ」とおっしゃりながら楽譜に大きく印を付け、「暗譜が怪しくなった時はね、ドイツ風にしっかり弾いてみてね。」と優しくおっしゃります。

私は内心ハラハラ。

 

行きの飛行機の中で

「ママ〜勝てなかったらどうしよう。だんだんドキドキしてきた」

 

(今頃・・・・)大して練習していないのに、勝つつもり満々。

 

<傾向と対策>

 

モロッコのコンクールについて事前に色々調べました。

 

ヤングピアニスト1 10歳から13歳(出願締め切り時)

ヤングピアニスト2 10歳から13歳

ヤングピアニスト3 18歳以下

ヤングピアニスト4 18歳以下

それ以上の部(24歳以下、30歳以下など)

 

2年に一回

予選はありません。

ピアノの先生の推薦状があれば出場できます。

全カテゴリーで参加者100人から150人程度。

 

審査員長 Dominique MERLET先生(日本の浜松やピティナの審査員もされている)他、外国人の先生とモロッコ人の先生。

 

上の方の部は、賞金も大きく、副賞にヨーロッパでのコンサートやヨーロッパ留学支援などが付くので、インターナショナルコンクールの名の通り、色々な国から来ます。

ヤングピアニストの部の参加者を見ると、半分程度がモロッコ人。後の半分がハーフまたは外国人の子。

過去の履歴を見ると、モロッコとは関係ないヨーロッパの子どもが来て賞を攫っていくこともあったようです。

マラケシュのピアノ学習者のレベルは・・・・でしたが、カサブランカやラバトには、かなり上手な子どもも居るらしいので、初めてのコンクールがどんな結果になるかは分かりません。


<ヤングピアニスト1>

10歳から14歳の部。

会場は、大学の小さなホールでした。

コンクールというものが初めてなので、親子で緊張。先生にリラックスに良いと言われて用意したチョコレート、私の方が必要でした。

娘、ものすごく真剣な表情で出番を待っていたので、手を握ってやろうとしたところ、振り払われました・・・

まず、課題曲のデュセックのソナチネ。

譜読みは簡単な単純な曲ですが、小宮先生は、「こういう曲は、退屈になりがちだから、かえって難しい、選択曲は年長の子たちは、それなりに情感を込めて弾きこなすだろうし、ドビュッシーも同じくらい弾ける子が居るだろうから、デュセックで差をつけましょう」

と、コンクール直前は、デュセックばかり弾いていました。

 

出だしが良くて、

気分はアイススケートの解説者。

暗譜間違えやすい箇所や、飛びやすい箇所、ミスしやすい箇所、音楽的に重要な箇所を無事に通過するたびに、

(やった!!三回転半なんとかトゥーループ!決まった!!次はなんとか!決まったー!!!やりました!!)

という感じ。

普段のレッスンは、大体私も同席して居るのですが、あまりにも繰り返し聴いてきた曲なので、先生のお声が空耳で聞こえます。

「1回目ー2回目ーー3回目!!」

「もっともっともっと!」

息継ぎの音・・・・

 

終わりが近づいてくると、このまま行けるか、、、

ドキドキして、音楽を味わうどころではありません。

 

二曲目選択曲、ドビュッシーも、かなり集中して弾き始めました。繊細な音の響きの点で、何箇所か、あ!音のバランス外した。という部分がありましたが、彼女なりにドビュッシーの世界を表現できたと思いました。

感無量。

ドビュッシーを弾くことが決まった頃弾いていたのはブルグミュラー。ドビュッシーで初めてペダルを習いました。(それまでは足が届かなかった。先生は、補助ペダルは使わない方針)

先生は、「本当は、まだドビュッシーは早いのだけれど、本人が挑戦したいのなら、頑張ってみる?」

とおっしゃり、弾き始めました。

マラケシュで譜読みした演奏を私が録画して先生にお送りしたところ…

こちらが恐縮するほどの譜読み間違えの山。

レッスンでも、先生が「胸がキュンとした音で」とおっしゃるのを理解できない。「胸が苦しい」というと、「病気なの?」というくらい、まだ早い曲。

コンクール自体初めてで、コンクールレベルに曲を仕上げるのも初めて。

譜読み→正しく譜面通りに弾く→曲の解釈を付けていく(娘のレベルでは、先生の解釈を肉付けして行く)→それを消化して、自分のものにする。

という段階があるようにみえましたが、ドビュッシーは、本人の年齢と経験なりに最後の段階まで到達できた様に思います。

何ヶ月も先生と積み上げてきたものを、数分で判断されるというのは、本当に厳しい世界。

紙のテストなら、見直し、書き直しが出来るけれど音楽は一瞬の積み重ね。どんどん先に進んでいきます。

 

娘も手ごたえを感じた様で、発表を聞いて帰りたいというので、全員の演奏を聴きました。

選択曲は、それなりに聴かせる子供もいましたが、みんな課題曲のデュセックが今一。

先生の読み通りでした。

最後の子供が弾き終えた時に、これは行けるかも…と思い、待ちます。

3時半から始まり、最後の子が終わったのは6時過ぎ。プロの演奏会ではないし、流石に疲れましたが、審査員の先生がたは朝の10時から…

 

ブラインド越しに審査員の先生方がうっすら見えるのですが、なかなか終わりません。

1時間半もしたころに、挙手をして居るのが見え、しばらくしてみなさん出ていらっしゃいました。

(写真は二日目の発表風景)
最初に呼ばれたのは娘の名前。

この瞬間の喜びは、なかなか言葉では表せません…

 

娘の感想は…

 

ママ、出るまではすごくドキドキするんだけど、舞台の上に上がると時間がゆっくり流れるの。

不思議な時間なの。

頭の中には全然関係ないことが夢みたいに流れるの。たくさんのお話が。

本当はとても短い時間なのに、すごく長いお話なの。

コンクールだから拍手が無かったのが残念だけどね、気持ち良かった!!

発表のとき、名前が呼ばれてものすごく気持ち良かった!!

また出たいなー

気持ち良いからー

という、子どもらしいもの。


翌日、ヤングピアニスト2の部にでました。

実は、初日の結果が良かったので、2も狙えるかも…と話していました。

それが慢心に繋がったのか、2では、ダメでした。

演奏前、前日の様に緊張することなく平常心で弾き始めたのですが、最初の音が鳴った瞬間、ピアノが鳴って居ない、と感じました。

2の部は見るからに大きい子が多く、それまでに弾いた子は、全員よく鳴らして居たので、娘が弾き始めた時、急にボリュームが下がった感じがしました。

 

良い言い方をすれば、今までの子供たちの大味の演奏に比べ非常に繊細な音で始まったバッハに、一瞬会場がギュッと集中して耳を澄ませた感じがしましたが、その後の積み重ねて盛り上げて行く部分も、線が細い印象のまま終わってしまいました。

その後のバルトークも、そのまま。

 

結果は、予想通り残念。

一位になったのは、少し荒いけれど、惹きつけられる演奏をするフランス人の女の子でした。

 

娘の感想。

「ママ、椅子下げるの忘れたの。だからずっと椅子のことが気になって集中できなかったの。初日、ピアノが軽かったからそのつもりで弾き始めたらすごく重かったの…」


本番の課題。

緊張しすぎるという問題はありませんでした。かえって多少緊張した方がよく集中できたようです。

何か気になることがあっても、弾き始めたら忘れること。

音量、というか、ピアノをしっかり鳴らすこと。

レッスンで散々指導されて居る、体重のかけ方。

今回の結果を見ると、ミス無しで弾けることよりも音楽的に弾けることの方が評価されて居ました。

もちろん、両方、がベストですが、成長途中の子供ということもあるし、惹きつける力が強い子供が評価されていました。

娘のピアノの鳴らし方は、頑張っている感があるのですが、大柄な子は、腕の重みだけで良い音がでます。体格は成長を待つしかないので、体重のかけ方は今後の課題です。


全てのカテゴリーが終了し、コンクールのサイトを確認したところ、嬉しい驚きが。

特別賞のところに、娘の名前が!

この特別賞は、モロッコの最初のピアニストの名前が冠された賞。

娘は、賞金が増えることを無邪気に喜んでいましたが、私は賞の由来を聞いて嬉しかったです。

コンクールが終わり、授賞式コンサートまでの間、マラケシュで過ごしました。自宅のピアノは音が狂っていたので、友人宅のピアノを借りました。

私も娘も、正直言って授賞式コンサートはオマケくらいのイメージで居たのですが、ベルリンの小宮先生から「初めての晴れ舞台ですから、しっかり弾けるように、コンクールの動画を見て気になったところをメッセージします」と、長いメッセージを頂き、気持ちを入れ替えて毎日練習。


<<授賞式コンサート>>

コンサートの前日の夜中に「明日のリハーサルは10時〜17時です」というメールが来てびっくり。

いきなり言われても・・・という感じですが、マラケシュを早めに出て15時頃ラバト到着。

ホテルチェックイン前に、とりあえず会場に足を運ぶと、今日の出演者たちが何人か来て、弾いていました。「一人15分ずつ弾いています。一巡終わったので、今の子が弾き終わったら弾いてください」

と賢そうなモロッコ人男子に言われたので待ちます。

見た感じ、15から20歳くらいの様々な国籍の子達。

英語、ドイツ語、フランス語が聞こえてきます。

いかにも「子供」なのは娘くらいで、みんな一人で来ているようです。

コンクールも慣れている様子で、次は何に出るとか、いつドイツに帰るとかいう会話が聞こえてきます。

もともと知り合い同士の子も多いようです。

 

「ママ、みんな難しそうな曲ばかり弾いているのに、私ソナチネ弾くの恥ずかしいから嫌だ。モーツアルト(ソナタ)弾いてもいい?」

「・・・・今日モーツアルト弾かないでしょ?それに15分しかないのに、モーツアルト弾いたら終わっちゃうでしょ?ちゃんと今日のコンサートで弾くデュセック一回で良いから弾きなさいよ」

「・・・わかった」

「15分終わったら、また一時間待って15分弾けるのよ」

「一回で良い」

「・・・・・」

ここはモロッコなので・・・

授賞式コンサートの式次第などは分かりません。

多分、一番下のカテゴリーだからトップバッターです。

15分だけ練習し、一度ホテルへ。開始の30分位前に会場に到着すると、「親はダメです。本人だけ入ってください」と言われ、娘は会場内へ。

今日弾くのは10人ほどの予定で、娘以外の子どもたちは中学生以上。大丈夫かな。

このコンサートには、後援各国の大使なども出席されていたのですが娘は、全く緊張したそぶりもなく、堂々と弾いて大きな拍手を頂きました。

賞をいただく際も、全く物怖じせず。

入賞者は、目録にサインをしてから降壇するのですが、サラサラっとこなしていて一体誰の子どもだろうと思いました。

私だったら緊張して転びそうです・・・・。

他の受賞者の演奏もそれぞれとても個性豊かで興味深かったです。
課題曲なしのランクの受賞者は、ショパンのバラードを弾く子も居れば、バレエ音楽のピアノアレンジを弾く子も居ました。


娘の感想は

「ママ、拍手をもらって気持ちよかった。コンクールまた出てまた勝ちたい」

でした。

 

今回のコンクール、モロッコ、ロシア、アメリカ、韓国などいろいろな国の子が参加していましたが、16歳以上くらいの子はみんな一人で来ているようでした。母国語の他に英語はもちろん、ドイツ語、フランス語などが出来る様で、リハーサルの様子を見ていても、審査員の先生やコンクールのスタッフ、他の出場者とのコミュニケーション能力も高く、ピアノが弾けるだけじゃないのね・・・と思いました。

今回は、娘が小さいので私が裏方をしましたが、もう少し大きくなって、ピアノを真剣に続けていたとして、海外のコンクールに一人で行く様になったら、外国語で自分で色々手配しつつ、コンディションを整えて演奏するわけで、タフじゃないと、本番で力を出せないだろうなあと思いました。

まだ気が早いですが・・・・・

本人も、舞台裏を少し経験して、他の受賞者たちのコミュニケーション能力の高さを感じた様子でした。

そして・・・コンクールまでの長い練習ももちろんですが、本番を経験した事、授賞式で大勢の人前で弾いた事が非常に大きな経験になったように見えました。

ちなみに・・・

コンクール準備中の様子

ピアノコンクールの準備とちょっとしたスランプ
(2016年8月)

Debussy  La fille aux cheveux de lin Lesson 1

ドビュッシーを弾く事など考えられなかった娘が、ベルリンの小宮先生によってどれだけ引き上げられたか、という事の実録になっています。

そして、今回のコンクールで印象に残った事。
このコンクールは、今回が12回目。2年に一回の開催なので、24年目という事になりますが、今回初めて、一番上のカテゴリーでモロッコ人の16歳の子が優勝しました。授賞式ではバッハ=ブゾーニのシャコンヌを弾いていましたが、クラシック音楽の環境という意味ではあまり整っていないモロッコで、あそこまで弾けるようになるのはすごい事。
本人も先生も、コンクールの関係者も感無量だったと思います。

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