ベルリン・ピアノの旅

娘と二人で、ベルリンに行ってきました。
昼間は私の用事があり、朝夕はピアノ三昧の旅で、買い物&観光はほとんどできませんでしたが、帰りのフライトで娘が「後一ヶ月は居たかった」と言う位素敵な旅でした。

<娘のピアノレッスン>

娘は、約1年半前、7歳からピアノを習い始めました。
マラケシュのレッスンはフランス人の先生&アップライトピアノなのですが、いつもyou tubeで日本の子供達の発表会動画などを見ており、「日本人の先生と、グランドピアノでレッスンしてみたい」と言う娘の希望で、単発レッスンを受けて下さる先生を探しました。

ご縁があったのが、小宮尚子先生。
普段は、音大受験やヨーロッパのコンクール前の仕上げを見ておられる先生で、一ヶ月前にfとpの記号を習ったばかりの娘が教えていただく様な先生では無いと思ったのですが、事情をご説明すると、快く引き受けて下さいました。

引き受けていただく条件が、三日間×一日90分のレッスンを受ける事。
今まで、45分のレッスンしか受けた事がない娘は、90分と聞いて戦々恐々。
家で、自主的に時間を計って、90分、ひたすら最初から最後まで何回も弾いてみたりしていたのですが、
「ママ、90分って長いね。そんなに長い間何するの?」

「きっと、先生のお話もあるし、ずっと弾きっぱなしという訳じゃないからあっという間よ」

と言っていたものの、私も内心90分も集中できるかしら、と思っていました。

レッスン前:

レッスン後:

今までは、音の高さと長さを間違えないでスムーズに弾ければ良いという指導で、今回の曲(モーツアルト・ウィーンソナチネ6-1と4)でfとpを弾き分ける事を習ったばかり。クレッシェンドなどの記号は無視。
おそらく、マラケシュの先生は、娘には細やかな表現はまだ早いと判断されていたのだと思いますが、毎日の練習方法に付いても特に指導は無く、いつも、今習っている曲を何回か通して弾いて終わり。30分も練習すると、飽きてしまっていました。
娘は、音楽を聴く事が好きで、耳だけは肥えているので、自分の演奏がつまらないと言う事は分かっていた様ですが、「子供だから仕方が無い、教えてもらっていないからどうしたら良いか分からない、子供で魅力的な音が出せるのは、3歳、4歳から習い始めた子だけ」と思っていた様です。

小宮先生のレッスンでは、まず曲のストーリー性を、子供にも分かる言葉遣いで面白く楽しく教えていただきました。
「ここのフレーズの中に、一つ不思議な音があるよね?どの音だと思う?」「これ?」「そうそうそうそう。今まで普通の音で来たでしょ?ここだけ不思議な和音に変化しているでしょ?だから、この音は大切なの。不思議な音だから、丁寧に弾いてみよう」とか「ここは三回繰り返しがあるでしょ?これは、子供がお母さんに『買って買って買って!!』っておねだりしている感じで、一つ目よりも二つ目を、二つ目よりも三つ目を大きく弾いてみて」「そして、その後きれいなメロディが出てくるよね?ここは優しいお母さんの声だと思って弾いてみて」

先生の説明を受けながら弾いていると、音の羅列に色が付いてきます。
うまく弾けると、「よくできました」と褒めて下さり、翌日は更に高度な事を指導されるのですが、よく褒めて下さるので、娘も一生懸命付いて行こうとしていました。
また、一カ所いつもうまく弾けない場所があったのですが、「ここはとても難しいよね。でも、ここで切ってご覧。楽譜を見ると、線があるところ(小節の切れ目)で切りたくなっちゃうんだけれど、そうじゃ無いの。ちゃんと、音と音の切れ目があるから、ここに線を引いておくね。そこで切って練習したら弾ける様になる→何回か練習、実際弾ける様になる→じゃあ、今度は、ここで切るのは心の中だけにして、聴いている人には分からない様にしてご覧。→ちょっと早く弾いてみようか。」

という感じで、今までどうしても弾けなかったところが、その場で弾ける様になりました。
他にも、和音のスラーをきれいに繋げる方法、指の形の使い分けかた、ブレスの仕方、力強いフォルテの出し方、体の姿勢の使い方、アクセントの付け方、特に美しく弾く部分、最後の和音の弾き方など、様々なことを教わりました。

レッスンの最終日に通して弾いた時も、部分練習では弾ける様になっていたところを間違えたり、粗くなったりしていましたが、レッスン前と比べると見違える様になりました。

一番印象的だった変化は、娘が今までゲーム感覚で楽譜に向かっていたのが、「自分も音楽を奏でられる、音楽は物語だ、楽しい。」と言う事を実感した事です。見学していると、弾いている時の娘の表情がどんどん柔らかくなっていき、音も美しくなって行く事を感じました。
また、レッスンを通して、お家でどのように練習すると良いのか、と言う事をたくさん教えていただきました。

優しい雰囲気ながら、とても情熱的なレッスンで、帰りの飛行機の中で娘と楽譜をおさらいしたのですが、譜面を見ているだけで先生の声が聞こえて来る様でした。

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レッスンルームの古いブリュートナー、素敵な敷物、木の床、高い天井、窓から見える豊かな緑。ピアノの上にはご主人の金管楽器。壁には楽譜がずらり。先生の入れて下さったハーブティを頂きながら、ピアノの音がどんどんきれいになって行くことを感じながら聴講する時間は、とても幸せなひとときでした。楽譜のコピーに注意事項などをメモしていたのですが、あまりに心地よくて、どこを弾いているのか分からなくなるくらいでした。

肝心の本人の感想ですが、マラケシュに帰る日の朝も、「ママ、二時間時間があるんだったら今朝もレッスン行けたのに。どうして行かないの?もう小宮先生に会いたくなっちゃった」帰って来てからも「今すぐベルリンに帰りたい。小宮先生のお家の子になりたい」「小宮先生に、10回レッスンしてもらったらどの位上手になると思う?」と言う位、レッスンが楽しかった様です。先生のお人柄に惹かれたという部分ももちろんありますが、子供と言うのは、上達することが好きなもの。素敵に弾けたという成功体験の積み重ねの時間が楽しくて仕方なかった様です。


 

夜は、コンサートに行きました。

ゴルドベルグ変奏曲/コンスタンティン・リフシッツ/コンツェルトハウス

私と一歳違いのウクライナ人ピアニスト。ゴルドベルグ変奏曲は、いつもグールドを聴いていましたが、リフシッツの演奏は、よりダイナミックでパワフル。静けさと激しさのコントラストが激しく、全曲の物語性が強い演奏で、引き込まれました。
最初のアリアから、最後のアリアまでの物語が、良い映画を見ている様なドラマチックな感動がありました。

お隣の、一人で来ているドイツ人女性は、曲が終わるごとに小さくドイツ語で「ヤー」(yes)とつぶやいていました。
最後のアリアが終わった後、長い静寂の時間があり、ピアニストが手を膝に置き、観客席の方を向いて笑顔になった瞬間に割れる様な拍手。
この、余韻を楽しむ時間も印象的でした。
演奏者と観客の対話、音楽を通した繋がり、
小さなホールの数百人の人々の心と音楽が共鳴している様な、そんな経験でした。

最後、アンコールに一曲弾いてくれたのですが、アリアで終わった方が素敵だった様な気がします。(あまりにも、最初のアリアから最後のアリアまでの流れが良かったので)

娘も一緒に行きましたが、後で感想を聞いたところ、途中かなり眠かったそうで、最後のアリアの出だしが始まったとき、「助かった!!これで終わる」と思ったそうです。休憩合わせて二時間半、前半クープラン、後半ゴルドベルグ全曲は、8歳にはちょっと厳しかった様子。

勿体ない話ですが、「前の方の席だから、私たちからピアニストが見えるのと同様、ピアニストからもこちらが見えるから、絶対にきちんと聴く様に」と言う約束通り、退屈したとしても、目に見える形では出さなかったので良かったです。(音楽に調和していない観客が座っているだけで周りの邪魔と言う感じもしますが…)

「退屈したんだったら、もうちょっと大きくなるまでコンサート行くのやめる?」と聞いたところ、「退屈かどうかは行ってみないと分からないから行きたいし、アリアはきれいで好きだったけれど、最初のアリアの方が最後のアリアより素敵だった。今度はもっと知っている曲のコンサートに行きたい。リッちゃん(リシッツア)の月光(ベートーベン)とか」だそうです。

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モーツアルトピアノ協奏曲24番/内田光子/コンツェルトハウス

私も娘も内田光子さんのモーツアルトが大好きなので、今回のベルリンの最初の目的はこのコンサートでした。
ワンフレーズだけで痺れました。
いつもyoutubeで見ていたけれど、生音の迫力と、神々しさは全然違いました。
一音鳴らすだけで、空気が透明になる感じ。
アンコールのフランス組曲五番サラバンド
この一曲を聴くために飛行機に乗って来てよかったです。

今回の演奏は、モーツァルトフェスタの一環だったのでもう一つ聴いていこうかと思っていましたが、「音が消えちゃう」と、娘が言うので、そのまま帰りました。
ちなみに、10列目で11€・・・。あまりにも破格の値段で、本当に内田光子さんが出て来られるのか、直前まで信じられませんでした。

娘は、「昨日の100倍楽しかった」長いトリルがトリルだけで音楽になっている事と、you tube で見た事のある衣装、同じ髪型、表情だったことが印象的だった様です・・・(涙)

娘はロンドンのロイヤルオペラハウスや、パリのオペラ座の方が好きだそうです。もちろん、音響とかそう言う問題では無く、「キラキラしていて可愛いお城」みたいなところが好きなのだそうで、コンツェルトハウスは娘としては地味なのだとか。十分素敵な劇場だと思いますが。

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(*拍手の時の写真です)

ちなみに、娘はピアニストの演奏会の後は、必ずサイン会があると思っていたらしく、「内田光子さんは無いのよ」というとがっかりしていました。握手してもらって一緒に写真を撮りたかったそうです。(本当にミーハーですね・・・)


 

レッスンルーム

滞在中の練習用に、レッスンルームを探しました。利用しようと思っていたところが既にいっぱいだったので、ダメ元でスタインウェイ・ハウスのレッスンルームを問い合わせたところ、あっさり返事があり、最終日の夜2時間取れてしまいました!
6時から8時の予定で予約し、当日行って見ると・・・

「オフィスは6時で閉まるので、鍵はここのポストに入れておいてね!トイレは隣のホテルで借りれますから。では楽しんで下さい」

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という感じでレッスンルームの鍵を渡され、放置・・・・
お部屋に入ると、巨大なピアノ・・・。なんと、フルコンサートモデルでした。

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あら・・・・。

娘は無邪気に「おっきい!!!!。りっちゃん(ヴァレンティナ・リシッツア)やみっちゃん(内田光子さん)と同じだ〜〜〜」
(ファンの方済みません、娘が名前が覚えきれないので、勝手に親愛の情を込めて呼んでいます)

と喜んでいます。
娘が早速弾きはじめたので隣で聴きましたが、音の圧力がすごく、距離が近すぎる事、部屋が狭い事、娘には弾きこなせないピアノで

大き過ぎて音の圧力がすごく、部屋が狭い・距離が近過ぎることと、当然娘には弾きこなせないピアノなのであまり美しいと感じませんでした。なんとかに真珠ですね・・・

娘が途中で「疲れたからもう良い」と言い始めましたが、その気持ちは良く分かりました。プロのピアニストは、あんな楽器を二時間も全力で演奏するのかと思うとすごいです。

全然練習になりませんでしたが、マラケシュに帰って来てからyou tubeでピアニストの演奏を見ながら、「同じピアノを触った」と喜んでいたので良かったと思います。(厳密に言えば違いますが型が同じという意味で)


 

「ベルリンにピアノを習いに行く、一流のピアニストのコンサートを見せる、スタインウェイのレッスンルーム」・・・・子供のピアノに本気の親みたいですが、マラケシュからヨーロッパは、マラケシュからカサブランカに出るよりも気軽に行けるので、地方在住の方が家族でディズニーランドに行くために上京するのと同じ様なものです。
本当は、クラシックやバレエだけではなく、美術館や博物館等やレストランやカフェも一緒に楽しみたいのですが、まだ楽しみ方が分からない様なので、今のところは、娘が習っているピアノとバレエをテーマにして、旅を楽しんでいます。

今回の旅、買い物はユニクロと古本と、息子のお土産のミニカー、娘のレオタードのみ。
買い物でいっぱいになる予定だったスーツケースは帰りもガラガラでした。でも、たくさんのすばらしい経験で、心は一杯でした。

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