スローライフと女の暮らし

スローライフと女の暮らし

今日は大学時代の恩師、ゼミの後輩と食事をした。
恩師はスローライフ運動の第一人者。

モロッコのスローな話を楽しくしてきたのだけれど、その中で何か引っかかることがあって、帰り道いろいろ考えた。

モロッコに行くと、どこの町に行っても、のんびりカフェでお茶をしている男たちを見かける。
時間の流れなど全く関係ない雰囲気で、日がな一日くつろいでいる人もいれば、仕事の後、帰宅するまでの時間をゆったりと男同士で過ごしている人もいる。

外でのんびり遊んでいる子供たちも多く、田舎に行くと、夕暮れ時には放牧していた羊の小さな群れを率いて、これまたのんびり家路に向かう人の姿を見ることもできる。

モロッコではまだまだ豊かな食文化が残っており、グリーンピースの豆を一つ一つむいてタジンを作ったり、農家では、自家製の小麦や大麦を挽くところから始めてパンを作る。
料理だって、泥つきのお野菜を大きな束で買って(農家だったら畑から取ってきて)きれいなところと食べられないところを仕分けし、きれいに洗って泥を落として、小さく小分けする、グリーンピースのタジンを作るときは、鞘に入っている豆を買ってきて、一粒一粒さやから出すところから始める。

こうやって丁寧に作った食事は、それはもう、レストランの食事とは比べ物にならない美味しさで、丁寧な生活って素晴らしいなあと実感させられる味だ。

そこで、ファストな国から来た日本人はたいてい感動して、「スローな食事って素晴らしい。」と言う感想を持つ。
私も当然その一人で、夫の農園で収穫された無農薬の野菜や果物を楽しんだり、お手伝いさんが精魂こめて作ってくれた、丁寧なクスクスを毎週いただいたりすることは、モロッコ生活の大きな楽しみの一つだ。

でも、そこでふと考えてしまうのは、こういうスローな生活を支えているのは、結構忙しくハードな、モロッコの専業主婦たちの存在であるということだ。
モロッコの庶民の暮らしを見ていると、スローな暮らしをしているのは男性と、現役を退いた女性、男の子供だけである。
女は、控え目に言っても、朝起きてから寝るまで、かなりファストな毎日を送っている。
町中の女性の暮らしで言うと、一から丁寧に作る三食の料理、パン作り、複数の乳幼児の世話、義理の両親の介護、まだまだ多い手洗いの洗濯、水を使った大掛かりなお掃除。お祭りやお客さんの時は大量の料理を作り、お菓子ももちろん自家製だ。
農村に行くと、これに水くみや家畜の世話なども加わりさらに忙しくなる。

最近では随分ましになってきているとはいえ、一昔前まで、女の子は家事を手伝うために、学校に行かせてもらえなかった。

例えば、農家に行くと、「うちで育てた小麦から作ったパンと、うちでとれた蜂蜜と、オリーブオイルと、うちの牛から取れたミルク」が出てきたりする。
その美味しさは本当に素晴らしい。
が、小麦がパンになるまでの過程を一つ一つ実行することを考えると気が遠くなりそうな気がする。

農家の話に限らなくても、例えば、私のモロッコでの暮らしだって、家で一日中家事をしてくれるお手伝いさんの存在なくしては成り立たない。
お野菜一つをとっても、日本のスーパーで売っている野菜を買ってきて調理することと、モロッコの八百屋や市場で買ってきた野菜を調理するのでは、手間が全然違う。
モロッコには、日本のように出来合いのお惣菜などほとんどないし、そういうものを家庭で食べる習慣はほとんどないので、時間をかけて調理するしかないのである。

モロッコの主婦たちは、手をかけて食事を作ることに誇りを持っていて、男性たちも自宅の料理を自慢する。この伝統は素晴らしいけれど、もっと多くの女性に選択肢が与えらるようになると、そのままの形で残すことはまず無理だなと思う。

モロッコでは高学歴の女性もかなり増えてきていて、彼女たちは男性と同じように、ところによっては男性以上に出世しているが、家に帰ると、必ずお手伝いさんか、結婚して居ない姉妹などが居て、家事を担当している。

スローに作った食事、それが文化で素晴らしいことであるのは確かだ。
でも、そうやって食事をするためには、「学校に行けない女の子」の存在が必要不可欠だったわけで、先進国から来た人間が「この文化は素晴らしい!」と言うことは簡単だけれど、その陰の事情も忘れてはならないなあと思う。

私が子供の時にもし、「おまえは女だから、学校は小学校だけで良い。家に入ってお母さんの手伝いだけをしていれば良い。」と言われたら、どんなにショックだっただろう?と思う。
娘にも、いろいろな選択肢がある人生をあゆんでほしいなあと思う。(専業主婦になるという選択肢も含めて)
そういう考え方が、文化をある程度壊してしまうとしても、やはり一人一人の人間の自由の方が大切だと思う。

ディアモロッコ/宮本 薫
http://www.dearmorocco.com/

2 comments » Write a comment

  1. はじめまして、いつもブログを楽しみに読んでいます。
    2年前にモロッコを旅し、私もモロッコの家庭料理の手間のかけ具合にたいへん驚き、感動して帰ってきた内の1人です。
    ちゃっかり子供ができたら一緒に朝パンを焼きたいという夢まで作って帰ってきました笑 単純ですが
    それがモロッコの良い所のひとつに当時は思えたのですが、実際それが「当然」とされていたり「強制」されているものだと思うと疑問を感じます。
    良いものを残す事と犠牲を払う事… うーーーん
    難しいです
    働き者のモロッコ女性がバリバリ会社で働きだしたら間違いなくモロッコ経済発展しまくりでしょうね[E:run]
    いろいろ考えさせられました。
    質問なのですが、モロッコ社会で働かれている女性は理解ある家族の了解があって働いているのだと思いますが、やはり職場内でも性差別されたりするのでしょうか?(管理職になるのが難しい等)
    それとも難関なのが家族の説得で会社に入ってしまえば男性と同じように働く事が可能なのでしょうか?

  2. こんにちは。
    コメントありがとうございます。
    職場内での性差別はあまりないと思います。
    女性で高学歴の人が、低学歴の男性を使うという光景は普通に見られます。
    それよりも、階層によるチャンスの有無の方が大きいのではないかと思います。

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